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はじめてひとこと

夏の暑さも落ち着いた、少し暗くなった頃、


なんだか、無性にビールが飲みたくなって酒屋までぶらぶらと散歩する。


ずっと東京暮らしだったから、田舎の道を歩くのは少し照れくさい。


サンダルをペタペタと鳴らしながら、酒屋までの道。


道の先に椅子に座りながら夜空を眺めている近所のおじさんがぽつねんといる。


どうも、こんにちは、いい景色ですよね。


その人は自分に声をかけてきた。


どうも生まれた土地に不慣れになってしまった自分は、


ええ、そうですね。


と答えつつ、すたすたと通りすぎてしまった。


ああ、ばかだなって舌打ちしながら、頭をかいた。


いったい、何に恥ずかしがっていたのだろう。


酒屋でビールを何本か買って、同じ今来た道を戻る。


やはり、その人はまだ涼んでいた。


だが、その人からもう声はかけてこなかった。


そこで、何かが自分の背中を押した。


こんにちは。きれいな景色ですね。


その人は、びっくりしたように、


ええそうですね。こうやっていると気持ちが良いですよ。


と、少し慌てた様子だった。


自分は今買ってきた袋の中からビールを1本取り出して、


まぁ、一杯やってくださいよ。


って言って渡した。


もちろん、その人は断ろうとしたのだが、


無理やりひざの上に置いて、


いえいえ、じゃあ。


い、いいんですか?ありがとう。


その人は照れくさそうに、ニカッと笑った。


自分はサンダルをペタペタと鳴らしながら家に帰った。

by harry_hk | 2005-08-11 21:34 | 言葉